パリには国立の美術館が18ほどある。そのうちフランスをはじめとするヨーロッパおよび周辺エリアの総合美術を扱う美術館は3つ。それがルーブル美術館、オルセー美術館、ポンピドゥーセンター近代美術館だ。そしてそれぞれ受け持つ時代が決まっている。
ポンピドゥーセンターに所蔵される美術家は年代が決まっている。
ルーブルはご存じの通り、古代エジプトやギリシャ時代の作品から始まり、ルネサンス、近世、と人類の歴史のかなりの部分を扱っているがおおむね1800年代まで。そこからは、オルセー美術館が1848年の革命以降1914年まで。そしてそのあとの時代、正確には1870年以降に生まれた美術家の作品がポンピドゥーセンターに所蔵・展示されることになっている。
だいたい1900年以降に制作された作品がここにあると思えばいい。
よく知られている作家でいえば、1874年に最初の展覧会をパリで行った印象派の画家たち、つまりモネやドガなどはオルセー美術館。そのあとのピカソ、マティス、ブラックなどはポンピドゥーセンターということで、このあたりが2つの美術館の分岐点となる。
ポンピドゥーセンターを設計したのは誰か
アートファンにはよく知られているが、ポンピドゥーセンターの建築とまわりの街並みとの違和感はケタ外れだ。フランスをはじめヨーロッパでは、新しい建物を造るときにはもともとの景観との調和を図るのが基本。ここではそれをあえて風景的にはなんの脈略もない斬新なデザインが生みだされた。建築家はレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースを中心としたチーム。むき出しの配管に白く塗った金属の柱と、その内側にはガラスの箱。設計案が上がった時、完成したときには当然のごとく、識者もメディアもこぞって反対意見を申し立てた。
そんな批判にもめげずこの案が採用されたのには、建築家が言うように、人を怖がらせるような古い美術館のイメージを壊して、人とアートの自由な関係という新たな夢を創ろうとする試みゆえだといい、それこそがこの文化施設の構想を打ち立てた当時の大統領ジョルジュ・ポンピドゥーの想いでもあったという。
いまや世界でもニューヨークのMOMA、ロンドンのテート・モダンとならぶ近現代アートの殿堂。常設展示の充実ぶりもさることながら、企画される展覧会も注目の展示ばかりだ。
ポンピドゥーセンターの常設展示はアートファン必見。
ここに収蔵されている1900年代以降のアートといえば、パリが「芸術の都」としての地位を確立したその絶頂期からスタートということになる。印象派のあとの美術界は、クラシックな様式や画壇のしがらみからアーティストたちが解き放たれて、思いのまま、探究心のおもむくままに新しい芸術とは何か、自分の芸術とは何かを追求。アートが「壮大な実験場」になりはじめた時代だ。
ポンピドゥーセンターのメイン施設である近代美術館の常設展示室は、美術の歴史では「フォーヴ(野獣)派」と呼ばれる潮流から幕をあける。一時期のアンリ・マティスやアンドレ・ドランなどがそうだが、絵画が現実に忠実であることをやめ、人の顔が緑色で描かれていたり、樹木がピンクや青になっていたり、あるいは絵そのものが立体感を失って色の面になっていって世間を驚かした。1905年、彼らがサロン・ドートンヌという美術展覧会にこうした派手な絵を出展。その中心に大理石の美しい彫刻がおかれているのを見た批評家が「野獣に囲まれたドナテッロ(ルネサンス期イタリアの彫刻家)だ!」と新聞に書いたのが「野獣派」の名の由来だ。「野獣」という言葉が正しいかどうかはわからないが、ポンピドゥーセンターの展示室は挑発的な色の絵がずらりと並んでいて、印象派などの絵に慣れた当時の人々の驚きが想像できる。
そこからピカソやブラックのキュビズム、やがては未来派、ダダイズム、抽象主義、あるいはそれまでの時代にはあり得なかった素材を使うなどして、数限りない様式へと多様化していく。さらに写真、映像、デッサン、建築、デザインまで20世紀の表現形態があらゆる方向に拡散していったこうした時代の流れが手に取るようにわかる、それがポンピドゥーセンターだ。
1905年から第二次世界大戦前後までが5階の常設展示室、そこから階段でつながった4階へ降りるとその後1960年代から先の美術家たちの作品を見ることができる。主だった作品は長く展示されるが、2年に一度ほど入れ替えを行う。そして6階にある2つのギャラリーは企画展示室。ニューヨーク近代美術館(MOMA)、ロンドンのテートモダンなどと並び称されるだけあって、ここ数年を見てもカンディンスキー、ムンク、マルセル・デュシャン、マティス、アンリ・カルチエ・ブレッソン、パウル・クレイなど世界が注目する展覧会が開催されてきた。また1階の入口に連なるギャラリーでは、今を生きる美術家を中心に、かなり意欲的なセレクションとキュレーションがなされていて、現代アートに興味のある人なら必見のスペースだ。