2020年、コロナウィルスの世界的感染は、アート界にも暗い影を落としている。
中国以外に感染が広がり、ヨーロッパで本格的な流行が始まった3月初旬以降、アートフェアは次々と延期やキャンセルに。パリでも3月の「ドローイングNOW!」が中止、そして4月初旬の「ART PARIS アート・パリ」という春のフェアが秋に延期となっていた。
そしておよそ半年ぶりに、ようやく「ART PARIS」が9月10日~13日の日程で開催された。世界でもっとも規模の大きいスイスのアートフェア「ART BASEL アート・バーゼル」が、6月から9月に延期していたのが、結局中止になった。かたや開催を決めた「ART PARIS」関係者も、コロナ感染の行方にはかなり気を揉んだに違いない。
パリの国際現代アートフェアでは10月の「FIAC フィアック」に次ぐ2番目の規模となる「ART PARIS」だが、幸いというべきか出展ギャラリー、訪問者どちらもフランス国内が多い。再流行とも呼べそうな8月の感染者増加で、ヨーロッパ域内での人の移動がふたたび制限されている中でも「ART PARIS」が開催できたのは、この「実質国内フェア」という事情が大きい。
会場は、改修工事のため2021年初めから3年間の閉鎖に入る「グラン・パレ」。例年なら150ほどのギャラリーが参加する「ART PARIS」も今年は112にとどまり、しかもキャンセルになった参加者の穴を埋めるのにギリギリまで交渉がつづいていたとも聞く。
主な出展ギャラリーは、ペロタン、ナタリー・オバディア、タンプロン、イヴォン・ランベールなど。日本のギャラリーでは、パリに拠点を置く「Galerie Tamenaga」のみが出展した。今回初出展となるギャラリーも約4割ほどあったが、全体的にパリのギャラリーが多かったあたりは、今年の事情をよく表していると言っていい。
この「ART PARIS」が終了した翌日には、10月に開催する予定だったパリ最大のアートフェア「FIAC」から今年の中止が発表された。「ART PARIS」への影響を考慮したうえでの「事後発表」だったのかは定かではない。同じく10月にロンドンで開催される「Frieze Art Fair フリーズ・アート・フェア」もキャンセルを決めており、いずれにしても本当の意味での国際的なアートイベントが再開できるのにはまだ時間を要するようだ。
筆者が行った土曜日は、ちょうどとなりのシャンゼリゼ大通りで「黄色いベスト運動」に対する警戒態勢が敷かれたこともあり、グラン・パレの前の道路も封鎖。警官隊が見守るやや異様な風景の中での開催となってしまった。
2015年の連続テロ、2018年からつづく「黄色いベスト運動」、2019年末の大規模ストライキ、そして今年のコロナ禍・・・。続く「危機」にパリの経済は厳しい状況がつづくが、それはアート界も同じ。アートフェアが中止になったり、人が集まれない状況があるとしても、オンラインなどを通じてアート作品の売買はそれなりに行われている、と知り合いのギャラリストは語っていたが、おそらくギャラリーによってまだら模様であるに違いない。
10月開催の「FIAC」の中止が決まったことで、11月の「PARIS PHOTO」がどうなるかに次の焦点が集まる。パリのアート関係者の綱渡りはつづく。
(text / photo Takeshi Sugiura)